"close" の札をドアにかけようとしていた颯馬に慌てて走り寄る。

「悪い、颯馬!買わせて」

「おっ、蓮いらっしゃい。
っていうかこんな時間じゃ選ぶほど残ってないぞ?

慌てて駆け込んできて明莉ちゃんと喧嘩でもしたのか?」

冷やかすようにくすくす笑う颯馬は注文するまでもなくいくつかのケーキを箱に詰め込んだ。

「ん、はじめて喧嘩した。

いや…喧嘩にもなってないか」

「なんだよそれ」

「…明莉は思ってること何にも俺に言わないから喧嘩にもなってない…かな…」

「無理にさ聞かなくても言わせなくてもいいんじゃないか?

言いたければ言うし、言わないってことは言いたくないか言いづらいことなんだよ。

待ってやればいいじゃん。

蓮らしくないな。明莉ちゃんには余裕なさすぎたな」

「…しょうがないだろ。

お前だって杏さんのこととなると余裕なかっただろ」

「まぁな。

好きなんだから仕方がないよな?」

颯馬が俺に同意を求めて顔を見合わせてお互い吹き出した。

「俺はいつも杏を追いかけて必死だったけど、高校時代の蓮からは今の姿想像できないな。

こんな機嫌とるようなことしたことないよな?」

注文するまでもなく箱の中にいくつかのケーキを詰めてくれた颯馬が、箱を袋に入れて俺に手渡した。

「今度は一緒に明莉ちゃんとこいよ。

ウェディングケーキのデザイン画できたからさ。

さぁ、早く帰って仲直りしろ」

「ありがとう。今度は明莉と一緒に来るよ」

「あぁ、待ってる。
明莉ちゃんに宜しくな」

「伝えとく。杏さんにも宜しくな」

お互いに片手を上げて俺は急いで家に向かった。