「ねぇ…香田さんちょっといい?」

使用していない会議室に、経理の先輩が私を出勤するなり連れ込んだ。

「昨日佐藤さんのお父さんのことで下はごたごたしてたみたいだけどこめん。
挙式前に話すべきことじゃないかもしれないんだけど…」

先輩の話に私の疑いが確信に変わる。

コンビニの前で私のことを抱き締めた朝陽さんの香りが、蓮司のツナギから微かに香った。

先輩は昨夜遅くに二人が会社の駐車場で抱きあっているのを見て、朝陽さんが告白しているのを聞いたと私に伝えてきた。

その日の午後、朝陽さんが会社にきて今月いっぱいで退職することが決まったと竹内さんが上にきてこっそり教えてくれた。

急な申し出だったが、家の仕事のこともあり、有給消化で出社はもうせずそのまま退職になるようだ。

朝陽さんのあいた穴は、営業に上がった片瀬さんが、年内は蓮司のサポートが必要だからとフロントにしばらく戻ることが急遽決定した。