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「配属…?」


ブラウンを基調とした重厚な家具が並ぶ執務室。

部屋に響いたのは、燕尾服を纏った一人の少年の声だった。齢十六の彼の目の前で椅子の背もたれに体を預けているのは、紺碧の長髪を一つに束ねた色気のある青年である。


「あぁ。お前が俺の元で執事の見習いをはじめて四年。そろそろ、独り立ちする頃だと思ってな。俺の知り合いに声をかけておいたんだ。」

「専属契約…ということですか?」

「さすが話が早いな。あらゆる家に雇われ渡り歩く野良の俺とは違って、お前はそっちの方があってるだろう。まぁ、お前は稀に見る鬼才だし。執事のしての腕は心配してないよ。…だろ?メル。」


名を呼ばれた少年は、わずかにまつ毛を伏せて師匠の真意をはかる。


少年の名は、メル=ランドレット。

アッシュの入った明るいグレージュの髪にローズピンクの瞳という中性的な見た目は、幼いながらも見惚れるほど整っている。

宮廷画家の父と学者の母の元に生まれた彼は、幼い頃から貴族の世界に身を置いていた。もっとも、貴族の出生ではない彼は「執事」などとはあまり縁のない家柄であったが、物心つく頃には黒い燕尾服を羽織り、その教養を受けていた。

少なくとも、それは社交界で人脈を広げていた母の影響であり、城に勤めて王族と関わる機会が多くあった父の影響でもあった。