「陸、ここまだ会社の目の前なんだけど。大声で名前を呼ばないでよ」

「えぇ。だって、もう勤務中じゃないし」

そのむくれる姿。
背だけは180cm弱と大きく育っても、相変わらず可愛らしい顔をしている。きっと、年上のお姉様方には、かなり人気があると思う。いや、あると断言できる。実際に、ちょこちょこ告白されてるようだし。

そんな陸は、さっきまでの仕事用の顔とは大違いで、まるで仔犬のような表情で私に纏わりついてくる。

「どうせ帰る場所は同じなんだから、一緒に帰ろうよ」

「陸、会社の近くで誤解を招くような発言はやめてよ」

「えぇ。本当のことじゃん」

「若干違うでしょうが!帰る場所は同じじゃない!あくまで、同じマンションってだけで、部屋は違うでしょうが」

「些細な違いじゃん。同じマンションの同じ階で、隣同士なんだよ。全部ひっくるめて、帰る場所は同じでしょ?」

「ち・が・う!そこはひっくるめちゃダメなところだから!」

そう。
私と彼、恩田陸は、住んでいるマンションが同じで、部屋が隣同士なのだ。

すごい偶然?
なわけはなく、どちらかというと仕組まれたようなものだ。