それでも、彼を愛していた私は、彼に何も言えずにいて。
そして、モヤモヤとしている内に、祖父の法要の後家族に紹介することになり…。
彼はそれを待ってましたとばかりにプロポーズしてきたのだ。
「あたるくんはさ…私の何処が好きになったの?」
「…珍しいね、みゃーこがそんなこと聞くなんて」
右の眉をぴくりと動かして、彼は私を見る。
あぁ…この顔は、彼が獲物を懐柔しようとする時の顔だ。
私はわざと溜息をついて、髪を掻き上げた。
そして、ぎしりと椅子を鳴らして足を組む。
「理由が見つからないのに、人生を左右する行動は出来ないもの」
「理由?」
「ただ好きだからってだけで、付き合い間もない男女が結婚して、破局する確率って知ってる?」
そう言うと、彼は少し考えてから、
「そんなに高くないんじゃないかな?」
と返してきた。
私はざわめく胸を押し殺して、彼を斜めに見つめ返した。
「やっぱり納得できない。だから、あたるくんとは結婚出来ない」
「みゃーこ…?」
「丁度いいから言っておこうと思って。私、今週末で退社するの」
それは寝耳に水だったのか、彼の目が見開かれる。
私の肩を掴もうとした手を退けて、私は微笑む。
「だから、さよならよ、あたるくん…」
無表情に、そう伝えると私は自分の分の代金をテーブルの上に置いて、そのまま店から去った。
足早に帰り道を歩く。
彼は後を追って来ない。
…これが、答えなんだと私は思った。



