こういうときは言葉につっかえたら負けな気がして、記憶を辿りながら勢いよく話し出したはいいけれど……なんだか、話せば話すほど、苦しい気持ちが蘇り、言い終わったときには自然と顔が歪んでいた。

だって、いくら好きだと言ったって、この想いがどうなることなどないとわかっているから。

相手の、瀬良さんの気持ちがどうこうじゃない。それ以前の、私の気持ちの問題だ。

惹かれてしまう心を誤魔化すことはできないけれど、だからって付き合いたいわけじゃない。想いを返して欲しいわけでもない。

好きだけど、好きじゃない。
絶対に付き合えない。もう、あの頃のような一途で純粋な関係は築けない。

半年前、会社で再会してからずっと抱えている矛盾する想いは、勝手に私のなかでせめぎあい、メンタルは日々消耗されるばかりだ。

『それさ、いつまで言うの? たしかに俺が悪かったかもしれないけど、もう謝ったじゃん』

あの時の瀬良さんの顔が思い出され、唇をかみしめた。

瀬良さんのなかではとっくに終わったことが、私のなかでは今もまだ生き続けている。それを瀬良さんはなにも知らない。
なにも知らないで笑いかけてくる。

瀬良さんが言う〝過去〟が、今でも私を傷つけているなんて想像もせずに。

本当に……嫌になる。
知らずに、自嘲するような笑みがこぼれていた。

「でも、可能性なんてないんです。私だってもう裏切られるのは嫌だし、同じ間違いはしたくない。でも、可能性がないってわかっていても、どんなに嫌だと思っても、惹かれる想いはスッて消えるものじゃないし……本当、諦められたらいいのにって思ってるのに、無理で」

瀬良さんに拒絶されたあの日から、私の心は今も傷ついたままだったらしい。
自分で話し出したくせに、声になる言葉がいちいち心に堪えてしまい、涙がじわっと浮かんでくる。

そういえば、と思う。
あの時から……別れを切り出した日から泣いたことがなかった。

だからだろうか。
突然あふれ出してしまった涙に自分自身でも驚きながら、目じりを指で押さえる。そこに溜まった涙が、指を伝って床に落ちた。