瀬良さんがモテるのは知っているけれど、年上にまで声をかけられるほどなのか。
ぼんやりと眺めている先で、瀬良さんは胸ポケットに手を入れメモを取り出す。そして、それを見ることなく手の中でくしゃりと握りつぶすとゴミ箱に捨てた。

たった今もらったものを、表情ひとつ変えずに……。

信じられない気持ちだった。

凝視しすぎたからか、不意に瀬良さんがこちらを振り向く。
目が合ったことにドキリと心臓を跳ねさせた私を見た瀬良さんは、わずかに目を見開いてから笑みを浮かべ近づいてくる。

立ち話する気はないので、私も向かうように歩き出しすれ違おうとしたけれど、歩くのを阻むように瀬良さんの腕が伸びた。
瀬良さんが壁についた手に、踏切の遮断機のように止められた形だ。

同窓会が行われているお店までは十メートルちょっとで、賑やかな話し声は内容まではわからないにしても、音としてここにまで聞こえてきていた。

「盗み見してたの?」

視線を上げると、ニッと口の端を上げた瀬良さんがこちらを見下ろしている。

「人聞き悪いこと言わないで。たまたま見ちゃっただけ」

そもそも瀬良さんは私がトイレに立ったのを知っている。
私がここを通りがかることだってわかっていただろうに、わざとからかうような言い方をしてくるところに腹が立った。

「戻りたいんだけど」

冷たく言っても、瀬良さんはどくつもりはないようだった。
私の進路を阻む腕は、私の目線の高さにずっとあるままだ。

「もしかして妬いてる?」という、挑発みたいな言葉に思わず顔を上げると、瀬良さんがぐっと距離を詰めてくる。
鼻先がぶつかりそうな近さに戸惑い、息をのむ。

顔にカッと熱がこもったのが自分でもわかり、それを隠すためにうつむこうとした私の顎を、瀬良さんが指ですくった。

至近距離から見つめてくる瞳が怖いくらいに真剣で、呼吸が震える。
心臓は痛いくらいに動いていた。