トイレは、お店の外にあった。このフロアにあるお店の共用らしい。
ホテルのように綺麗なトイレはタンクレス。仕事柄素通りできず、戸建てじゃないのに珍しいなとまじまじと眺めてしまった。

洗面所の水道も、ガラスのボウルで受けるタイプで洒落ていて可愛い。

築十年は経っていそうな建物なのに、水回りやインテリアは最新式だ。リノベーションしたみたいだけど、どこの会社が入ったのだろう。センスがいい。

そういえば、トイレを綺麗にしたら売り上げが回復したなんていう記事を読んだことがあるけれど、ここのトイレもそういう意図からおしゃれな空間にしているのだろうか。

ひとり色々と考えながら、通路に続く扉を開ける。でも、一歩踏み出したところで足を止めた。

「私、あと一時間であがりなんだけど、よければそのあと飲みに行かない?」

そう微笑んで誘っているのは、女性店員さんだった。同窓会の会場に、何度か料理を運び入れていたひとだ。
美人で、男子グループがやたらと声をかけていた。それを遠巻きに見た瑞恵が『みっともない』と切り捨てていたから覚えている。

「俺、同窓会の途中なんで」と、申し訳なさそうに笑うのは……瀬良さんだ。

最悪だ。変な場面に居合わせてしまった。

「そんなの抜けちゃえばいいじゃない」
「そうしたいところですけど、俺が抜けたら盛り下がっちゃいますし」
「じゃああとで連絡して?」

恐らく年上であろう美人店員さんが、瀬良さんの胸ポケットにメモを入れる。
あまりの手慣れた様子に感心しながら見ていると、店員さんは瀬良さんに目配せをし仕事に戻っていった。