「千絵と瀬良って、今どうなってるの?」
顔を寄せた美香に小声で言われる。
「え?」
「さっき、瀬良ともちょろっと話したんだけど、その時に千絵と職場が同じだとか言ってたから」
美香の言葉に、瑞恵が「え、そうなの?」と驚いた声を上げる。
三年前の同窓会では、会社自体は同じでも配属先は違ったから、特に話題には出なかった。でも今回は、同じビル内で働いているわけだし、それを聞いて瑞恵や美香が驚くのも無理はなかった。
瀬良さんと私が付き合っていたことは、クラス内どころか学年中に知れ渡っていたから。
「建物は一緒でも部署は違うし、どうもこうもないよ」
「なんだ、そうなんだー。でも、元カレが同じ職場とかちょっと気まずそう。三年の途中で別れたんだっけ?」
自分の取り皿を持ち、色々と料理をよそいながら聞く美香に「うん。高三の夏にね」と答えると、瑞恵が「あ、それ覚えてる」と声を出した。
「たしか、瀬良が浮気したんだよね。モデルしてる綺麗な女の人と」
「……うん」
別れた原因も、クラス中が知っていた。
別れたことを面白がってからかう男子を見かねた瀬良さんが『俺の浮気が原因だよ』と、言い切ったからだ。
『だからもう、この話題は終わりにしてくれない? つーか、こんなデリケートな部分からかって楽しむとか悪趣味すぎだから』
別れてから、瀬良さんとは会話らしい会話はしていない。
だから、あの時、そう言いながら苦笑いをこぼした瀬良さんの態度が、悪乗りした男子に本当に嫌気が差したからだったのか、それとも私への優しさだったのかは、今もわからないままだ。



