「お疲れ様です」
「ああ。お疲れ」
目の前まできた北川さんは、特に私の服装に触れることはなかった。普段、仕事帰りに会う時と大きく変わらないからだろう。
顔を逸らした北川さんは、拳を口の前に持っていくとコホッと軽い咳をしてから私に視線を戻した。
「ところで、俺になにか用事か?」
「はい。仕事とは関係ないのに、すみません。これを渡したくて」
コンビニのビニール袋から、先ほど購入したばかりののど飴を取り出す。
スティック状のパッケージには、溢れんばかりの蜂蜜が入った壺のイラストが描かれていて、端には〝十粒入り〟という文字が入っている。
喉の風邪を引いたとき、私がまず一番に手を伸ばすのど飴だ。
「もしかしたら、もう治ってるかもしれないし、そうじゃなくても、味が好みじゃないかもしれないとも考えたんですけど……やっぱり、北川さんの喉が気になったので」
のど飴を差し出しながら続ける。
「これ、パッケージはこんなですけど、甘さはあまりないし、後味もスッキリなのでお気に入りなんです。だから、よかったら」
笑顔で告げると、北川さんは面食らったような顔で停止した。
そのあと、わずかに眉を寄せ私を見る。
「……これのために、わざわざ?」
〝信じられない〟とでも言いたそうな顔だった。
「わざわざってほどじゃないです。私も駅に向かうところでしたし、ただのついでですよ」
「メッセージで、会社にいるかどうか聞いただろ。もし会社にいたらどうするつもりだったんだ」
「それは……時間があるので戻った可能性もありますけど。まぁ、気分次第というか適当にしてましたから、そんなもしもの話はいいじゃないですか」



