誰かの気配なんて全然気づかなかっただけに、まずいと思ったけれど……とっさに振り向いた場所にいたのは、北川さんだった。
北川さんなら、たとえ今の会話を聞いていたとしても言いふらすようなひとじゃない。だからとりあえずはホッとしていると、表情をいつもの明るい笑顔に変えた瀬良さんが「お疲れ様です」と挨拶する。
「ああ。お疲れ」
「今、来たところですか?」
瀬良さんの探るような言葉に、北川さんはその意図に気づいてか気づかずにか「ああ」と即答した。
瀬良さんは、その答えに少しほっとしたような表情をしたあとで聞く。
「それにしても、どうしたんですか? 北川さん。今日これからここでアポでも?」
……そうなんだろうか。なにも聞いていないけれど。
だとしたら、電気を消して回ってしまったから、付け直さないと。
暗いモデルハウスでお客様を迎えるわけにはいかない。
そう思い焦ったけれど、北川さんは「いや、白石に用事があっただけだ」と答えた。
私に用事って……また一緒に夕ご飯だろうか。
前回からは五日空いている。だから別に構わないのだけれど、だとしても、携帯に連絡をくれればよかったのに。
瀬良さんにおかしな誤解をされても困る。
そのへんのことは北川さんだってわかるだろうに、どうしてわざわざ私に用事なんて口にしたのかがわからず眉を寄せる。
北川さんには女性恐怖症の噂があるのに、仕事上、大きな関わりもない私にわざわざ会いにくるのは不自然だ。
やっぱり瀬良さんも同じように思ったらしく、納得いかなそうにしていた。



