「前は俺が〝可愛い〟って褒めたら喜んでくれたのに」
広いモデルハウスのなか、この部屋だけが照明がついていて明るい。周りが暗い分、嫌でも瀬良さんに集中してしまって落ち着かない。
〝可愛い〟なんて、だって……そんなの本気で思っていなかったくせに。
「昔話しに来たならもう戻れば。そういう話ならしたくない」
ふたりきりでいると胸がひりひりする。
過去の想いになんか引きずられたくないのに、同じ空間に瀬良さんがいるだけで嫌でも戻ってしまう。
付き合っていた頃の私に。
「千絵」
昔みたいに名前で呼んだ瀬良さんを、きつくにらみつける。
浮かんだ涙のせいで「やめて」という声が震えていた。
瀬良さんは、少しの沈黙のあとで、再び口を開く。
真面目な顔だった。
「千絵、俺はあのときたしかに一度裏切ったかもしれない。でも、本気じゃなかった。俺が好きなのは、今でもずっと……」
「やめてってば……!」
瀬良さんをどれだけ好きだと思い出したところで……思い知ったところで、もう隣に行くことなんてないのだから。
瀬良さんでも誰でもない、私がもう嫌なんだから。
涙がこぼれそうになっている私を見て、瀬良さんはショックを受けたように目を丸くしていた。
それから、情けなく眉を下げた瀬良さんがなにかを言おうとするから「もう仕事に戻って」とはっきりと告げたとき。
「――白石……と、瀬良か?」
第三者の声が聞こえてきて息が止まりそうになった。



