ここには私以外いないはずなのに……と、驚きからドクドクと鳴る心臓の前で手を握り振り向くと、そこにはYシャツ姿の瀬良さんの姿があった。
とりあえず、不審者でも幽霊でもなかった部分にホッとして腰が抜けそうになる。
「なんだ、もう……びっくりした」
はぁ……と大きなため息をつきながら「幽霊かと思った」と小さく漏らすと、瀬良さんは呆れたように笑う。
「まだそんなこと言ってんの? 幼稚園の頃からずっと苦手なままだよな」
「小さいころ苦手だったものなんて、たいがい大人になったって苦手でしょ。瀬良さんだって、ずっとしいたけ嫌いじゃない」
「吉永先生がハロウィンでしいたけのお化けの格好なんかして驚かせたせいだろ」
幼稚園の頃の話題を出され、懐かしく思いながらもこの話題は続けないでおく。
どんなに会話が盛り上がったところで、あとで苦しくなるだけだから。
「それで、このお花の名前、さっきなんて言った?」
「ああ、ラナンキュラス」
「ラナンキュラス……そうなんだ。綺麗な花だよね」
瀬良さんが花の名前に詳しいのは昔からで、おばさんがお店を空けなくちゃならないときには、よくふたりで店番をしながら色んなお花の名前を教えてもらったものだ。
いつも、学校では人気者の瀬良さんが、お店にいるときには少しだけ違う顔をするから、その時間がとても好きだったことを思い出す。
ファーストキスも、お店でだった。



