事実だし、もう昔のことなのに、声が喉を切りつけながら出ていくようだった。
そこらじゅうに落ちているような出来事だろうに、どうしても……どうしても〝そんなこと〟〝たった一度〟と割り切れなかった。
六年経った今も、なお……。
「彼は何度も謝ってくれたし私も一度は許したんです。やっぱり、好きだったから。でも、そのあと、彼に電話がかかってきたり、彼が用事があるって出かけたり、そのたびに浮気かもしれないってよぎるようになっちゃって」
授業中。部活の帰り道。別々の班になった修学旅行。
一緒にいられない全部の時間が私の不安をあおった。
〝もしかしたら、今……〟と、会えない時間はどんどんと私を追い込んだ。
でも、もう許したんだから。謝ってくれたんだから。ちゃんとやり直そうと決めたんだから。
そのうちに、瀬良さんを信じられない自分が悪いように思えてきて、でも疑う気持ちは止められなくて、感情はぐちゃぐちゃで……ひとりでは耐えきれずに瀬良さんにそれを打ち明けると――。
「苦しくて苦しくて、彼に打ち明けたら『まだ言ってるの?』って、『もう謝ったのに』って……そこでもうダメだと別れを告げました」
必死に信じようとしていたものが、去勢が、ガラガラと崩れた瞬間だった。
だって、私のなかでは終わったことではない。
瀬良さんと一緒にいる限り、ずっと付きまとうものだ。それを一緒に背負ってもらえないのなら、どんなに好きでも付き合っていけないと思った。
このまま付き合ったらきっと、ボロボロになるって。
フォークをお皿に置くと、わずかな金属音が響いた。そのまま、テーブルに置いた手をそれぞれぎゅっと握り締める。
あの時の裏切られた気持ちだとか、言葉にできない虚しさだとかを思い出し、ただただ耐えていると、しばらくしてから北川さんが言う。



