「いや……そういう欲がないわけじゃないって言っただろ。白石は意識していないんだろうけど、俺の視界にはずっと布団が入っているし、今はふたりきりだ。こんな場でそんなことを言われれば、気持ちも昂る」
「え……あ」
「社員旅行中に手を出すわけにはいかないからな。暴走しないよう、気持ちを引き締めていた」
そう目を細められたら、今度気持ちが昂るのは私のほうだ。
やわらかい微笑みも、セットしていない髪も、少しかさついている指先も。浴衣の北川さん全部を私のものにしたくて、独り占めしたくてたまらない気持ちになる。
繋いだままの手をギュッと握ると「白石?」と声をかけられるから、意を決して口を開いた。
「あの……少しだけでもダメですか?」
なんのことかわからなそうにする北川さんに続ける。
「私からするだけですから。……今、無性に北川さんとキスしたいんです、けど……」
チラッとうかがうように見上げると、北川さんは驚いたような顔をしたあとで、ふっと笑った。
「好きにしていい」
もう、ダメだと思った。好きだという気持ちが止まらない。
四つん這いになり、少し距離を詰めたあとで、そっと唇を合わせる。それしか知らない子供じゃないのに、唇が触れ合うだけのキスで十分すぎるほど満足している自分に驚いた。
気持ちが膨らみすぎて、これだけでいっぱいいっぱいで、むしろ溢れるほどだ。
……なのに。



