「今回の旅館、雰囲気がいいですよね」
周りを十分に確認してから入った部屋。湯呑にティーバックを入れ、そこにコポコポとお湯を注ぎながら言う。
この部屋に配分されたのは私ひとりだけど、もともとはふたり部屋なんだろう。いつの間にか敷かれていた布団のせいでスペースは限られても充分すぎる広さがあるので、ふたりで座っていても窮屈さは感じなかった。
「そうだな。料理もうまかったし、風呂もよかった。中庭の造りも綺麗だったな」
「あ、やっぱり北川さん、お庭も好きなんですね。さっき、眺めながらもしかしたらそうかなって考えてたんです」
お茶をテーブルに置くと、北川さんは「ありがとう」とお礼を言ったあとで「ひとりで見たのか?」と聞くからギクッとした。
別にやましい気持ちはないけれど、言おうと思っていた秘密を先に突かれてしまった気分だ。
「まぁ、ひとりだったりふたりだったり、です。色々ありまして」
田村さんとの件はもういいだろう。
たぶん、田村さんもアルコールが入ったせいで少し気持ちが漏れただけであって、今後なにかしてくるとは思えない。
でも、もうひとつは言っておかないと……と、お茶を飲む北川さんをチラッと見てから、テーブルの横で向かい合うように座り直した。
「さっき、瀬良さんと少し話をしてきました」
聞いた途端、ピタリと動きを止めた北川さんが、湯呑をテーブルに置く。
そして、手を伸ばし私の両手を握ると、私の顔色を探るようにじっと見つめた。



