恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―



じっと見ている先で、驚いた様子だった瀬良さんは次第に泣きそうな笑みを浮かべる。瀬良さんのこんな顔を見るのは、あれだけ長い時間一緒にいたのに初めてだった。

「うん。俺も好きだった」

そのまましばらく見つめ合ったあと、よし、と気持ちを入れ替えて立ち上がる。

「これからは、女性社員だけじゃなくて、男性社員にも好かれるように努力してくださいね」

笑顔を向けると、瀬良さんも笑みを浮かべた。

「それはどうだろう。俺、男からは敵視されやすいからなぁ」
「鼻につくような態度とってるからじゃないですか」
「ひどい言われようだな」
「あと、お酒飲んで余計なこと言うのやめてください」
「……それは本当にごめん」

昔みたいな、でも昔のままじゃない言葉を交わし、笑う。

「じゃあ、おやすみなさい」
「……うん。おやすみ」

挨拶をかわし、すれ違う瞬間の瀬良さんの顔が、心なしかスッキリして見えた。
きっと瀬良さんから見る私もそうだっただろう。


半分残った豆乳のパックを片手に部屋に戻っていると、その途中で向かいから歩いてくる北川さんに気付いた。

北川さんの部屋もこの階だったかな、と思いながら足を止めると、北川さんも私の前で立ち止まる。
ふわっと石鹸の香りがして、温泉から上がってきたところなのかなと思った。

「今、白石の部屋に行ったところだ」
「え、なにか用事でしたか?」

そういえば、スマホは部屋に置いたままだ。急な用だっただろうか……と心配になっていると、北川さんはゆるく首を振った。

「用事ってわけでもないが、寝る前に顔が見たくなって。それだけだ」

やわらかい微笑みを向けられ、胸が苦しくなる。
浴衣姿の北川さんがやたら色っぽいせいもあるんだろう。なんとなく、このまま別れるのは寂しく感じ、はしたないかな、と思いながらも口を開く。

「あの、私ひとり部屋なので、よければお茶でも飲んでいきませんか?」

客室が続く廊下に人影はない。
それを確認して聞いた私に、北川さんは「じゃあ、お言葉に甘えて」と目を細めた。