そんなちょっとした事件は、私の高校生活にはつきもので、そのたびに瀬良さんが守ってくれていた。
それを、田村さんとの会話のなかで思い出し……ずっと心の奥で固まっていた想いが溶け出したのを感じた。
私は、瀬良さんに関係することすべてを、ツラかったこととしてまとめて括って固めていたけれど……そうじゃなかった。全部がツラかったなんて、そんなわけがなかったんだ。
あんなにずっと一緒にいたんだから、楽しいことだって嬉しいことだって、ツラいこと以上にたくさんあった。
今まで、思い出して泣くことはあっても、思わず笑ってしまうことはなかった自分の視界の狭さに情けなくなる。
瀬良さんとの思い出は、今もこんなにキラキラしたものばかりなのに。
「瀬良さん」
まだ、不安そうな目をする彼に告げる。
「あんな形で終わってはしまいましたけど、私、瀬良さんを好きになったことも、付き合ったことも、後悔はしてません。私……本当に大好きだったんですよ」
真っ直ぐに見て言うと、瀬良さんが目を見開いた。
「あんなに色々な嫌がらせを受けても、それでも一緒にいたいくらい好きだったんです。だから……付き合っている間、夢みたいに幸せでした。全部、瀬良さんのおかげです」
たぶん、私が瀬良さんに伝えなければならない気持ちは感謝だ。
それを言わない限り、私のなかのわだかまりは解けない。
責めて責めて謝ってもらうだけじゃダメだった。傷ついたことも本当だけど、好きだったことも幸せだったことも本当だ。
「それは誤解されたくなくて。……あの、楽しかった時間を、ありがとう」
『ありがとう』という言葉がするっと出たことにも、自然と微笑んでいたことにも自分自身で驚いた。
きっと、この瞬間、瀬良さんとのことが過去の箱にストンと収まった気がした。



