「……もしかして、新幹線とか隣の席に女性が座ったとき、きついからですか?」

在来線なら女性がいない場所を選んで立っていればいいけれど、新幹線は誰が隣に座るかわからない。しかも在来線と違い、駅間も長いから、隣に女性が座ってきてしまったら北川さん的にはもう終わりなのかもしれない……と思い聞くと、北川さんはバツが悪そうな笑みを浮かべた。

「その理由もなくもないな」
「なんだ。言ってくれれば付き合いますよ。新幹線も隣同士で席をとれば、問題ないですし。……あ、もちろん、私と一緒でもいいならですけど」

建築物を見に行くのなら、北川さんからしたら半分は仕事だ。そこに私が同行したら邪魔になる可能性もある。
そこを心配したのだけれど、北川さんは微笑んで言う。

「じゃあ、今度行くか。来月にはまとまった休みがあるから、そのあたりにでも」
「あ、はい。ぜひ」
「どうせ足を伸ばすなら、山形か岐阜あたりにするか……いや、北海道でも……」

ひとり、ぶつぶつと考えだす北川さんの横顔を眺めながら笑みをこぼす。
普段、冷静沈着な北川さんが珍しい建築物を前に夢中になる姿を見てみたい。

……けれど。
山形にしても岐阜にしても、泊まりになるんじゃないだろうか。それって、つまりそういう――。

「白石」

ひとり悶々と考えていたとき、繋いだ手をクンと引かれ立ち止まらされる。振り返ると、北川さんは私より一歩手前で立ち、私を見ていた。

「あ、すみません。なんですか……」

なにかを聞き逃してしまったかもしれない、と思い聞いたのだけれど、北川さんが急に私の腰を抱き寄せるから言葉が途中で止まる。

力強いけれど強引ではない腕に抱き寄せられ、そのまま唇が重なる。
驚きながらもそっと目をつぶると、それを合図みたいに北川さんの指が唇を割るから大人しくそれに従った。