「はい。だいたいは。でも、ここ数年は旅行って社員旅行でしか行っていないので、毎回準備してても何が必要なんだかよくわからなくて、不安になります」

ふたりの間では、当たり前のようにつないだ手が揺れている。
北川さんは硬派なイメージがあるし、もう結構な大人だしで、人前でベタベタするのは嫌いそうだと思っていたのだけれど、ふたりで会った帰り道は必ず手を差し出してくれる。

正直、私もいい大人なので、人目があるところでは少し恥ずかしくはある。でも、あの北川さんが手を繋いでくれるのが嬉しいので、素直に受け入れている。

今では、どちらともなく繋ぐようになっていてそれも嬉しい。

七月に入り、うちの会社でもクールビズが始まったので、北川さんはYシャツにノータイ姿だ。いつもはしっかりと締めているネクタイもないし、Yシャツのボタンもひとつ開けているしで、色々無防備でドキドキする。

「俺も社会人になってからは、社員旅行でしか遠出してないな」と北川さんが言うので、少し驚く。

「珍しい建築物とか見に行ったりしないんですか?」
「行っても、日帰りで行ける範囲にしている」

付き合いだしてから知ったけれど、北川さんは建築士だけあって建築物が大好きだ。部屋にはそういった種類の本がたくさんあるというし、一緒に本屋に入ると北川さんは必ず建築物コーナーで足を止める。

だから当然、現地に足を運んでいるとばかり思っていただけに、返ってきた言葉は意外だった。
でも、もしかして……という考えが頭に浮かび、チラッと北川さんを見上げた。