なるほど……とこっそり納得する。
たしかにそういう面があるけれど、よく気づいたな……と驚いた。

先輩の言う通り一見、誰にでも心を開いているような笑顔を見せる瀬良さんだけど、実際は違う。
心の内は、相当信頼している相手にしか見せない。

だから、瀬良さんが振りまいている万人受けする笑顔も愛嬌のある性格も全部表向きだけのもので、本当の瀬良さんはと言えば……性格的には、たぶんよくはない。

たとえば、告白してきた女の子に申し訳なさそうに『ごめんね』と言った数分後には、『どうせ俺の顔だけ見て告白してきたくせに、大げさに泣くんだもん。本当、勘弁してほしい』と面倒くさそうに言い捨てる男だ。

つまり、裏がある。

でも、今までそこに気づいたひとは、私が知る限りはいなかっただけに、柿谷先輩の洞察力のよさに感心してしまった。

「でも、白石にはやたらと構うよね。今日のその仕事だって、私なり部長に頼んだっていいことなのに、わざわざメモ書きしてまで白石に頼むし。なにかあるの?」

疑いの目で見てくる先輩に、苦笑いを返す。

「高校まで学校が同じだったので。それでかと」
「ああ、そうなんだ」

納得した様子の先輩に「他には思い当たる節もないので」と念を押しておく。
先輩はいいひとだけど、結構ミーハーな部分があるし、しかも勘が鋭いから万が一にでもなにか嗅ぎつけられてしまったら大変だ。

もう終わっていることを掘り返されるのも嫌だ。

「それより白石、今日の仕事終わりどこかで飲んでいかない? 時間ある?」
「あ、すみません。今日はちょっと……予定が」

時計に視線を移すと、もう十七時四十分で、約束の時間まで一時間を切っていた。

「そうなの。残念」と言った先輩がパソコンの向こうに顔をひっこめたのを確認してから、ポケットの携帯に視線を落とした。

黄緑色に点滅する小さなランプは、未読のメッセージがあることを教えていた。

『今日、何時に上がれる?』

資料室であのあと、北川さんに聞かれた。
私が答えた時間は十八時半。
それまでに待ち合わせ場所をメッセージで入れておくからと、IDを交換したけれど……北川さん、本気だろうか。

周りを確認してから携帯をこっそり見ると、そこには駅の向こうにある和食店の名前と十八時半という文字だけが並んでいた。
信じがたいけれど、私はどうやらこれから北川さんと食事をとるらしい。

今日増えた連絡先が、あの〝北川修司〟だと知ったら、先輩はどんな顔をするだろうとブルリと背中を震わせながら、十八時半に間に合うよう残っている仕事に取り掛かった。