北川さんとお付き合いを始めて一ヵ月半。一応リハビリとはいえ、関係は恋人になったわけだけれど、北川さんの態度は付き合う以前と大きく変わりはない。

北川さんは以前、そういう欲がないわけではないと言っていたから、きっと今の状態は私の気持ちが追い付くのを待ってくれてのことなんだろう。

でも……正直私は、なにを持って瀬良さんのことを吹っ切れたと言えばいいのかがわからないでいた。
瀬良さんは、好きだとか嫌いだとか関係なく、当たり前のように私の中に存在する。これまでの長い間ずっとそうだったように、これからだって消えることはないと思う。

北川さんが好きだと思うし、北川さんと一歩踏み出したいとも思うのだけれど、瀬良さんを過去にしたと自分でしっかりと言い切れる確証がないのに北川さんと先に進むことは、とても不誠実に思えて……なかなか思い切れないでいた。


「社員旅行の荷づくりはもうすんだのか?」

会社帰りに一緒に夕飯を食べたあとの帰り道。駅に向かいながら聞く北川さんにうなずく。

二十一時前。今日選んだお店は奥まった場所にあったため、駅までの道は抜け道のように細く、人通りはほとんどなかった。
街灯が少なく薄暗いけれど、北川さんが一緒だから気にはならなかった。