「リハビリ……」
「そうだ。白石の気持ちが、瀬良から俺に、完全に移るように。だから、今はまだ少しでいい。ほんの少しでも俺に気持ちが向いているなら、それでいい」

ただ魅了されるしかできないでいる私に、北川さんが手を伸ばす。
その指先が私の唇に触れるものだから、びっくりして顔を逸らした。

急展開すぎて頭がついていかない。

思い切り拒絶してしまったことに後から気付いて、チラッと見上げると、北川さんは無表情のまま私を見ていた。でも、その顔がなんだか傷ついているように見え、弁解する。

「あの、その、触られるのが嫌とかじゃなくて、私の問題なので」

慌てて説明すると、北川さんが「白石の問題?」と更に聞いてくるから、しどろもどろになりながら今の気持ちを言葉にする。

「自分でも、今の気持ちとか状態が、すごく中途半端だってわかってるんです。それなのに、こんな、なんていうか、それっぽい雰囲気のなかで、そんな触られ方すると、流されて期待しちゃって……こう、感情だけで暴走しそうで、だから……ん」

説明中だった。
北川さんとは、今までもなんでも言葉にしてきたから、誤魔化そうとはせず、恥ずかしい心の内を頑張って説明していたところだった。

それなのに、言い切る前に突然キスされて、頭が真っ白に染まる。
あまりにびっくりしすぎて、たっぷり数秒たったあとでようやくキスされたことに気づいた。

心臓がバクバクし出す。

ゆっくりと見上げて「暴走するって、言ったじゃないですか……」とこぼすと、北川さんは、ふっと笑った。