「もう、リハビリは必要ありませんね」
私の手を握っても、北川さんの手は冷たくならない。顔色だって悪くならないし、泡も吹かない。
平然として見えるから、そう笑うと、北川さんは私をじっと見て口を開く。
「少し前から、これ以上のことをしたいと思っていたと言ったら、軽蔑するか?」
『これ以上のこと』と言われ、一瞬ぽかんとしてしまう。
けれど、それが何を指すかがわかった途端、自然と首を横に振っていた。
「いえ! 全然! だって、ものすごいステップアップですし」
手を握られる行為どころか、近寄られるだけでダメだったのに、そこまで望めるなんてすごいことだ。
だから喜んでいると、真顔のまま北川さんが言う。
「誤解がないように言っておくが、そもそも女性恐怖症になるきっかけが起こる前までは、俺だって男としてそういう欲もあったし、普通に……」
「わぁ、大丈夫です! その、わかってますから! ちゃんと」
急にカミングアウトしてきた北川さんを焦って止める。
いくら先生と生徒という関係でも、そんな踏み込んだ話題は困るし、そもそも私は素人だ。ただ、素人が医者の真似事をしているだけなのに、そんなもっともプライベートな話まで聞けない。失礼すぎる。
そう思い慌てて止めていると、手を握る力が強まったことに気づく。
忘れていたけれど、そういえば手を繋いだままだった。
ダンスを誘うような形で握られている手の甲を、北川さんの親指が優しく撫でる。その仕草に意図があるのかどうかはわからないけれど……ブラウスの袖からするっと入り込んできた人差し指にはビクッと肩が揺れた。



