穏やかな声色で北川さんが言うと、瀬良さんはゆっくりと視線を上げた。
眉を寄せているけれど、その顔にはさっきのような怒りはなく、悲しみのようなものが浮かんで見えた。
「さっきも言ったとおり、俺は、白石の泣き顔は見たくない」
私の背中に触れていた手が、そっと離れる。
その手に無性に触れたくなる自分に気づいたけれど、我慢した。しっかりしなくちゃダメだ。きちんと、ひとりで立って瀬良さんと向かい合わなくちゃダメだ。
自分のためじゃなく、瀬良さんのためにもここで終わりにしなければならない。
私と同じように……もしかしたらそれ以上に、瀬良さんだってきっとずっと苦しんできた。
それが、ようやくわかったから。
じっと見つめる先で、瀬良さんの瞳が私を捕らえる。
「私のわがままだと思ってくれていいよ。でも私、瀬良さんとは……柊二とは、この先、もう付き合わない。なにがあっても、付き合えないの。ごめん」
きっと、一度の浮気なら許して再構築するカップルも少なくないんだろう。そして、その結果、幸せになるひとたちだってたくさんいると思う。
だからこれは……この結果は、私のせいだ。私のわがままだ。
それがわかっていても……どれだけ柊二が好きでも、私は柊二の手をとることはもうできない。
「ごめん……私のせいで、ごめんね……っ」
涙が落ちる。
次々と溢れ出る涙をこらえきれずに、泣き声が漏れた。



