「あ、白石。お疲れ。外してる間に瀬良さん来てたよ」

出てきた名前にドキッとしながらも、平静を装い「そうなんですか。用事はなんでした?」と返す。

二十畳ほどの部室には、デスクがよっつ固まった島と、部長の離れ小島がひとつ。
壁際の大きな棚には資料がギチギチに押し込められている。

「お客様から瀬良さんに直接電話が入ったけど、アフターの担当範囲だから引き継ぎたいって。メモ置いて行ったから確認しておいて」

デスクの上には、先輩の言うようにメモ書きが一枚置かれていた。よく知っている文字に、ただそれだけなのに胸が痛む。

「はい。わかりました」
「でも瀬良さん、相変わらずカッコいいよねー。高校大学ってモデルもしてたって話だし。なんていうか、オーラが違うしキラキラしてて目の保養になる」

カタカタとパソコンを叩きながらの言葉に、席につきつつ「……そうですね」と返すと、しばらくしてから「でもさ」と話しかけられた。

柿谷先輩と私の席は向かいだから、パソコンの横からにょきっと顔だけのぞかせた先輩が苦笑いで言う。

「性格はちょっと難ありな感じするけど」
「どのへんがですか?」

本当にわからずに首を傾げてしまった。
瀬良さんは愛想だっていいし、女の子相手に冷たい態度も基本とらないハズだ。先輩にだって『生意気なやつだなぁ』なんて言われながらも可愛がられる質だと思うし、後輩ともうまく打ち解けそうだ。

いい意味で軽いから。

だから不思議に思っていると、顔をのぞかせたままの先輩が答える。

「誰にでもいい顔するっていうか、逆に言うと、誰にでも同じ顔して笑ってる気もするし。全部上辺って感じしない?」