寂れている、というよりは味のある外観のカフェ内に、あまりお客さんの姿はなく、むしろ営業中かどうかさえ疑問になるほどだ。
ドアにかかっている札がしっかり〝営業中〟となっているのを確認してから、ゆっくりと空を見上げる。

時間は十八時半。空に太陽の姿はないけれど、明るさはまだ残っていた。
こうして待ち合わせるのは、食堂でのちょっとした騒動があってから初めてだ。つまり、前回から一週間以上間が空いている。

今まではこんなに日が空いたことはなかったけれど、これもきっと噂を気にしてだ……と、自分に言い聞かせたのは、数日前のこと。

最初はあんなに面倒がっていたのに、一週間ちょっと会わないだけで気になるようになってしまったのは……。

いつも、同じ場所でストップする思考回路。その先を本当にわかっていないのか、それとも見ないふりをしているのか、自分でもわからない状態が続いていた。

北川さんといるとホッとする。
嘘をつかない、まっすぐな真摯な目は好きだと思う。まるで北川さんの心を映すみたいな、純粋で綺麗な微笑みも好きだ。

利発な部分も、惜しげもない優しさも。
案外、強情なところも、子供っぽいプライドも、興味がある話題になると口数が増えるところも。

北川さんのことを考えると胸の奥がぽわっとした柔らかい熱を持つ。この感覚を知らないわけではないけれど……恋の始め方を忘れてしまっているのも事実だった。

瀬良さんと再会してから、心がぐちゃぐちゃで、どう恋をすればいいのかがわからなくなっていた。

ひとつ息をついてから、空を眺めていたとき。

「千絵」

名前を呼ばれ、その声にドキッとする。
誰だか確認するまでもない、聞きなれたその声の持ち主は、私と一メートルほど離れた場所に立っていた。