「俺は自分の気持ちに自信があった。俺以上にあいつを想う男なんていないし、誰よりも大事にしたいとも思ってる。……今でも。そういう自分の気持ちを痛いくらいわかってるから……だから〝たった一度〟とも、思うじゃないですか。本当に、〝たった一度〟だけなんだよ……」

悲痛さが伝わってくるような声と横顔を見て、ゆっくりと口を開く。

「傷ついた、と話していた」

そう告げると、瀬良はゆっくりと視線を俺に向け、苦々しく笑う。

「知ってますよ。俺も何回も言われたから。でも、終わったことを何度も蒸し返されたって俺にはどうすることもできないじゃないですか。ふたりして未来を見たいのに、千絵はいつまでも過去にこだわってついてきてくれなくて、俺もイライラして、悪循環になって……結局、好きなまま別れるしかなかった」

悔しそうに眉を寄せた瀬良が続ける。

「大学行って、就職して、それでも千絵のいない生活には慣れなかった。だってずっと一緒だったから。なにしてたって、ここに千絵がいたらなって考えるし……だから、会社で再会できたときはすげー嬉しかった」

空になったグラスを振り「同じの、おかわり」と言う瀬良を止めて、水を差し出す。
いい加減飲みすぎだ。

瀬良は不満そうな顔をしながらも、諦めたのか水を煽った。

「なのにあいつは冷たい態度しかとらないし……昔はもっと素直で明るくて可愛かったのに、そういう顔、全然見せてくれないから、俺もムキになるし」

子供のように口を尖らせた瀬良がぶつぶつと言う。

「今度こそ優しくしてやりたいのに、あいつは俺が近づくことすら許してくれない。意地の悪いことでも言って怒らせない限り、千絵は俺と〝ただの同僚〟って態度でしか、他人行儀でしか接しない。それが、堪らなく嫌なんだよ……」