背後でひそひそと話す女性社員を横目で確認し、そのまま会社を出る。

内容は聞くまでもなく想像がつく。
昼の社食でのことだろう。

後から考えれば、あまり合理的な行動ではなかった。あれだと噂の相手が瀬良から俺に代わっただけで、白石に直接色々聞いてくる社員がいるかもしれない。

〝女性恐怖症で、白石に練習に付き合ってもらっていた〟なんていう部分は切り落とされ、〝モデルハウスにふたりきりでいた〟という部分だけが広まる可能性はある。噂なんてあてにならない。

そう。あてにならない。面白がるのは一部の社員だけで、一か月もすれば忘れ去られる。だったら、瀬良との噂だってそのうち消えるのだから放っておけばよかったのかもしれない。

駅に近づくにつれ増えてきた通行人をよけるようにして歩く。空に視線を移すと、飛び立ったばかりなのか、低い高度で飛行機が飛んでいた。すっかり夜の色に染まった空に、赤い光が目立つ。

昔から飛行機が好きだった。
あんな鉛の塊が空を飛ぶという事実が、どうにも受け入れがたい。理屈ではわかっていても、不思議で仕方ない。

だからだろうか。わからないからか、昔から憧れを持っていて、それは今も変わらない。
この話をしたとき、昔の恋人は眉を寄せた。確か、〝らしくない〟というようなことを言われた気がする。

白石だったらどうだろう……と考え、浮かんだ顔に苦笑いをこぼした。きっと大きな口で笑うのだろう。

〝え、飛行機好きなんですか? 意外! 男の子みたい〟
そんな、明るい声がコロコロと頭のなかを転がった。