「雑誌の表紙を飾ったりCMにも出ているような、とても綺麗なひとで……悔しいけど、瀬良さんと並ぶとすごく絵になってました。私よりずっと。だけど、瀬良さんは私と別れたくないって言ってくれたから、その気持ちを信じようって思ったんです」
タクシーが一台、お客さんを乗せて走っていく。
それを横目に見ながら「でも」と続ける。
「雑誌でそのひとを見るたびに、思っちゃうんです。私よりも綺麗で、私よりもスタイルがよくて、私よりも瀬良さんにお似合いで……私が思うくらいなんだから、瀬良さんだってきっと同じように思ったんだろうなって、比べたんだろうなって」
笑おうとして失敗する。
こんな自虐、冗談にしなくちゃ北川さんだって返事のしようがないとわかっているのに……笑えなかった。
奥歯をギュッとかみしめて、浮かぶ涙を我慢した。
「明るい気持ちでいたいのに、ひがみたくなんかないのに、その人を雑誌で見るたびに〝私なんか〟って……思っちゃって。ダメだと思っても、どんどん負のループに……」
この話を誰かにするのは初めてだった。
こんなことを言葉にしたら余計に自分が可哀相になってしまう気がして誰にも言えなかった。
『自分に自信がないやついるじゃん。〝俺なんか〟とか〝私なんか〟とか、すぐそういう思考になるやつ。うっとうしくてすげーやだ』
瀬良さんが言ったその言葉が、まるで呪縛みたいに私に絡んで解けない。
浮気されたのに、傷ついたのに、私は瀬良さんの前で卑屈になることさえ許されなかった。
〝あのひと、綺麗だったもんね〟だとか〝私、どこかダメだったかな〟とか、自分を下に見た発言はできなくて、でも、心のなかはそんな言葉だらけだったから、一時でも気を抜けばそれが口をついてしまいそうで、苦しくて。……すごく、苦しくて。
弱音を吐いて寄り添ってもらいたかったのに、私はひとりだった。
でも。
そうしてでも、瀬良さんに嫌われたくなかった。
だから、ずっと抑え込んできたのに……止まらない。
口を開くと、は……っと息が漏れた。
「自分のこと〝私なんか〟って、ずっと思っちゃうんです。ダメなのに、そんなこと、思いたくないのに、そんなこと考えたら瀬良さんに嫌われちゃうから、ダメなのに、ずっと〝私なんか〟って、離れなくて……っ」
我慢していた涙が、目じりから、ひとつ、またひとつとこぼれ落ちる。
泣き声がもれないようにと浅い呼吸を繰り返しながら、胸を押さえた。
苦しいのは、気持ちなのか、心臓なのか。
「白石……?」と呼ばれた気がしたけれど、そのままの勢いで続けた。



