「本当にすみませんでした」
「いや、そこまで謝ってもらわなくても大丈夫だ。白石がなんの理由もなしに遅れるようなヤツじゃないことはもうわかってる。俺との約束を忘れるようなことがあったんだろう」
穏やかな声で言われたけれど、罪悪感は消えない。
「でも……」
「結果的にこうして会えたし問題ない。それよりも、白石は大丈夫か?」
「え? 私ですか? なんで……」
「なにかあったんだろ?」
図星なだけに黙ると、そんな私を見た北川さんは「ん?」と優しい表情を浮かべる。
〝微笑み〟ってこういう顔を言うんだろうなぁと思うような柔らかい笑みに、胸の底のこわばりが解けていくのを感じた。
以前も北川さんの優しさに救われたっけ。
でも今回は安心するだけじゃなくて、同時に、瀬良さんとの一件を思い出し、一気に心臓がキュッと締め付けられる。
頭の中がぐちゃぐちゃで……それがまとまらないままこぼれた。
「私、失格なんです」
「失格?」と聞く北川さんは、とても真面目に私に向き合ってくれているのがわかった。
甘えるようにポロポロと言葉が口をつく。
「私は、偉そうに北川さんの先生なんてできる女じゃなんです。たった一度の浮気を許せないような、器の小さな……とにかく、ダメな女なんです。自分のこと、〝こんなやつ〟って思っちゃうような、うっとうしい女なんです」
本当は、話していなかったことがある。
私が瀬良さんとヨリを戻さないのは、ただ浮気の価値観が違うからってだけじゃない。
一緒にいたってまた傷ついて終わることがわかっているからだけじゃない。
理由は……他にもある。
『自分に自信がないやついるじゃん。〝俺なんか〟とか〝私なんか〟とか、すぐそういう思考になるやつ。うっとうしくてすげーやだ』
瀬良さんの声が頭のなかで繰り返されるたび、自己嫌悪でいっぱいになった。
「瀬良さんの浮気相手……モデルの先輩だったんです」
「モデル?」
目を伏せたままうなずく。
二十時の駅前は帰宅を急ぐビジネスマンが多く、吸い込まれるように駅構内に入っていく。
でも、私たちが立っている噴水周りは人も少なく静かだった。



