「うわ、ごめんなさい……。なんで涙なんか……わけがわからないですよね。本当にすみません。あ、でも、そのひとのことがここまで好きってことで……だからその、すみません。信じてください」

ひとりで勝手にしゃべってひとりで勝手に泣き出すなんて、北川さんにとってはいい迷惑だ。

社内でなに干渉に浸って泣いているんだと我に返り、涙をぬぐいながら見上げると、北川さんはわずかに眉を寄せ私を見ていた。

整った目鼻立ちに、すらりと均整のとれた肢体。体は男性にしてはやや薄いかもしれないけれど、骨ばったそれは間違いなく男性のものだ。

二十センチ近く高い位置から私を見下ろす切れ長の目の上で、いつもならきりっとしている眉が困惑を浮かべている。申し訳ない。……本当に申し訳ない。

「とにかく、私は女ですけど、こんな変な想いをこじらせてる女なのでノーカンで。北川さんに危害を加えるような真似は絶対になにもしませんから。顔色悪く……なってないですけど、気分はどうですか?」

出会いがしらでぶつかってしまった直後は少し白く感じた顔色が、今はそうでもなくなっている。
顔つきを見る限り、極度の緊張状態にあるだとかそういうわけでもなさそうだし、とりあえず緊急事態は回避できただろうか。

観察するように見ていると、北川さんは驚いたような顔をしたあとで「ああ、大丈夫だ」と答えた。

しっかりした声でホッとする。
そういえば、北川さんの声を始めて聞いた気がする。ずっと私ひとりでしゃべっていたから。