不意に、オフィスの空調が変わったせいで、左耳のピアスが長い髪に引っ掛かった。


私は心の中で舌打ちをしながら、それを解くために渋々ピアスを外す。


フック式のピアスはこれだから……。


そんな風に思って溜息を吐くと、目の前に私が一番会いたくない奴が現れる。


ムカつくほど長い足を優雅に動かして。
鏡にでもなるんじゃないかというくらいにピカピカに磨かれた革靴。
グレーのピンストのスラックス。

嫌でもセンスがいいことが分かるから、余計に腹が立つ。


その中でも一番嫌のは…。


「内海さん」


この、バリトンボイス。 
お腹に響く感じがなんとなく歯痒くて…私の心の中にイライラを増幅させる。


「…なんでしょう?」

「ランチ、一緒にどう?」

…今こいつ、サラッと私のことを誘いやがったな?
私はそう思って、イライラをオーラに包んで出しつつも、優美な微笑みを浮かべて…。

「お断りするわ?」

と、デスクから席を立った。

「おっと…待ってよ、内海さん」

私の前を阻むように立つ彼…古松瑠比(こまつるい)とは、入社当時からの腐れ縁、だ。

それはもう嫌になるくらい。

「退いて下さらない?」

私は口元にある2つの小さなホクロをトントンと右手の人差し指で触って、腕組みをする。

あぁ…本当にイライラする。


なんだってこんなにイライラするんだろう…。


それは、こいつに全て責任がある。


そう、全て。