烏が鳴く頃、その呪いは現れる。



「…ただいまー」



ぐったりとした体で、とぼとぼとリビングへ向かう。




「きゃあ!!」



え…?お母さんの声……?





ガチャッ!!と勢い良くドアを開けると、リビングの床で座り込むお母さんを見つけた。






「お母さん!?どうしたの…?」




「あ…亜子おかえりなさい……。ごめんね、虫の死骸が転がってて、びっくりしちゃったの」





なんだ、そんなことか……。




なにかあったのかと思って本気で焦った…。





「…う……、ちょっと…っ」





お母さんは少しだけ顔を青くして、近くの座椅子に腰かけた。





虫がものすごく苦手な母にとって、死骸であっても目に焼き付いてしまうだろう。





「お母さん…大丈夫?」





「あ、あはは……平気よ。すぐに夜ご飯の準備するからね」




お母さんはひきつった笑顔でそう言うと、とぼとぼとキッチンへ戻っていった。





虫がこんなに苦手なのは、お母さんが子供の頃に同い年の男の子からいじめられていたせいだと言っていたけど…。





そんなに酷かったのかな。





嘘ではないと思う。母はいつも、「なにか嫌なことをされたら真っ先に『やめて』って言うのよ。やめてくれないなら、お家に戻ってきなさい!」
というから。






そういえば…お父さんとお母さんって幼い頃からの友達で、結婚したんだっけ?






うーん?お父さんはお母さんをいじめていたのかな…?





!!






お父さん酷い!!






一人で妄想を広げ、怒りをぶちまけていた私をよそに、お母さんはぶるぶる震えながら夜ご飯の準備をしていた。