「もう終わってた? おお、綺麗になったな、野乃」
「佑さん」
「お腹空いただろ? 昼飯、予約してきたから行こう」
彼は自然に私の手を取り指を絡ませた。いわゆる、恋人つなぎというものだ。
その瞬間、鏡を盗み見ると、お似合いな恋人同士に見えた。
大人な佑さんと手を絡ませて、華奢なピンヒールで歩く私は、まるで私じゃないみたい。
車に乗るときも、わざわざ助手席に回って扉を開けてくれて……
「……なんか、変」
走り出した車内で、私はたまりかねて言ってしまった。
佑さんのいぶかし気な視線が、時折私に刺さる。
「どうしたの、野乃」
「佑さんは、見合いを断るために恋人のふりをしてくれる女の人が欲しいだけなんだよね」
「野乃?」
「だったら、私じゃなくてもいいよね?」
イライラして、私は思わず鞄を投げつけた。
突然の暴挙に彼は驚いて、車を道の端に寄せて止めた。
そして、食い入るように私を見た。
分かってるよ。
こんなに至れり尽くしてもらって、なに言ってるんだろって私も思うけど。
だけど、イライラが止まらない。
だって、こんな身代わりなら、誰だってできるじゃん。私が必要なわけじゃないじゃん。
私が佑さんのこと、何とも思ってなきゃ引き受けられるかもしれないけど。



