それになにより、先輩は鼻歌を歌ったり水遣りをしている時だけ、女の顔をしているから。


 先輩は口調が男っぽくて、目付きも悪い。

それは美形のあの顔がなければ、みんな男だと思い込んでしまうほどに。

父親が剣道を営んでる厳しい人だから、自然とそうなってしまったんだそうだ。

母親はいないらしい。


「春樹、何考えごとしてるんだ。さっさと逆側から水遣りしろ」

「はっ、はい!!」

 慌てて返事をして、水道の近くにあった如雨露に水を入れる。

「……春樹、朝飯まだだろ。水遣り終わったらどっか朝から空いてる店でも行くか」

 頬に手を当てながら先輩はいう。どうやら、照れているみたいだ。

 可愛い。

「はいっ!」

 それを見て気分が上がり、笑って俺は頷いた。

 笑ったのに気づいたのか、先輩は一瞬目を丸くしてから、また水遣りを始める。