「ひな人形は、生まれた女の子の成長を見守って、災厄から守ってくれるんだよ」
「そうだ。たとえば、お主が十歳の時、自転車の前輪に石ころが絡まって転んだことがあっただろう? その時、顎を四針縫う程度で済んだのは、妾のおかげなのじゃ。妾の加護がなければ、首の骨を折って今頃三途の川の向こう側じゃったわ」
はっはっは、と愉快そうに笑ったお雛さまだったが、私は全く笑えなかった。
十歳の時に自転車で転んで顎を縫ったのは間違いなく本当の話だったし、その程度で済んだのがお雛さまのおかげだったというのが衝撃的な事実だった。
言葉を失って固まっていると、お雛さまはかくんとまた顔をあげた。線のように細い目が私をじっと見つめる。
「ずっと心配しておったのじゃ。だから、あえて嬉しいぞ。これからもお主が元気に過ごせるよう、妾たちが見守っておる」
ババが私に手を差しだした。手の上に乗せていたお雛さまをババに渡す。赤い布が敷かれた段の一番上にそっと置かれると、お雛さまはかくんと首を戻す。
なんとなく、目尻が笑たように垂れさがっている気がして、最初に感じた恐怖はもうどこにもなかった。

