「たぶん僕が何度言っても麻ちゃんは、忘れてしまうと思うので、代理の方を呼んでおきました」

 「……代理の方?」


 三門さんは私の後ろの障子を指さした。

 締め切られた障子があるだけで何もない。ほっと胸をなでおろし前に向き直ったその時、廊下からずずっずずっと何か床をひきずる音が聞こえた。その音は徐々にこちらへ近づいてきている。私は壊れたロボットのようにぎぎぎ、と首を回した。障子の端に人影が写る。普通のものではない。

 髪はぼさぼさにみだれ、その隙間からは人間にはないはずの尖ったものが生える。腰は曲がっており、その手には鋭利な刃物が握られていた。


 ひっと息を飲んだ。逃げるように身を引いたが、越が抜けたらしくそこから動くことができない。

 助けを求めるように振り返ったが、三門さんはもくもくと食事を続けていた。

 影は障子のど真ん中で止まる。


 「あっ、あの、ごめんなさい、違うんです……! ほんとは、ちゃんと」

 「それは僕じゃなくて、彼女に伝えてね」


 全く助ける気がないらしい。三門さんはそれだけ言うと、食器をまとめて立ち上がり、台所へと消えていく。

 その日の私の悲鳴は裏山の反対まで響いたらしい。