朝日が昇る少し前に社へ帰ってきた。

 誰にもばれないように社頭は通らず本殿の裏から自宅へ侵入する。無事に屏風覗きの弥太郎と入れ替わることに成功し、布団にもぐると直ぐに眠気が襲ってきた。

 そして次の日の朝。何ともない顔をして朝食の席に着いた私は、身を縮ませて正座する羽目になる。


 「そう言えば麻ちゃん」


 お味噌汁を啜りながら、三門さんがにっこりと笑った。


 「昨日は僕の御札が大活躍したみたいで良かったよ」


 畳の上にぽろりと箸を落とし固まる。


 「力がまだ不安定な麻ちゃんに、何かあった時のために書いた御札なんだけどね。まさかコートのポケットに忍ばせたその日に役立つとは」


 顔は笑っているはずなのに、目が笑っていない。優しい声が今はかえって恐ろしかった。


 「あ、あの」

 「“妖には関わり過ぎないで”“危険なことはしないで”って何度言ったんだろうね、僕」


 全身からどっと冷や汗が噴き出た。心臓がうるさい。手足の先が驚くほど冷たくなっていた。

 三門さんはにっこりと微笑んだ。思わず背筋が伸びる。