渋谷さんが帰ってから2時間後、私も初日の勤務を終えた。


「思った以上に動けますね、素晴らしいですよ。その調子で、お願いします。」


店長にそう言われて、少々照れ臭かったが、嬉しかった。店のスタッフはいつの間にか、私のようなオバさん中心から、学生アルバイトの面々に切り替わり始めている。彼らにお先に失礼します、と挨拶して、私は売場を後にした。


着換えて、社員通用口から出ると一転、今度はお客として、地下の食料品売場へ。


緊張から解き放たれて、また久しぶりに1日立ち仕事をして、ドッと疲れを感じ、正直出来合いのもので済ませてしまいたいと思ってしまったが、そうも言ってられない。


目についた商品をカゴに入れながら、しばらく歩いていて、ハッとした。


(こんなに買って、どうするの?)


つい、今までと同じ感覚で、食材を買おうとしたが、一体何人で食べるつもりなの?と思い至った。


改めて売場を見回すと、どれもこれも1人分にしては量が多すぎる物ばかり。今までは、全く無縁だった戸惑いに、困惑する。


(そうだよね。もう一緒に食べる人は、いないんだもんね・・・。)


そう考えると、量のことだけでなく、急に料理をしようという意欲が薄れて来てしまう。


毎日の献立を考え、作って、後片付けをして・・・それは決して楽な作業ではなかったし、面倒臭いなぁと思ったことは一度もないなんて、言うつもりもない。


でも家族の為に作るってことは、それなりに張り合いになってたんだなってことに、今更ながら気が付いてしまう。


(隆司さんも清司も、今晩どうするんだろ?いきなり外食かな?)


フッとそんなことを思ってしまった。