「夫婦の在り方も、男と女の在り方も、時代によって変わるのが当然。私らの時代のそれが、今の時代に通用しなくなってることも聞いてないわけじゃない。それは仕方ないことだとは思うし、反面、時代遅れと何もかもが切り捨てられるのは、違う気もする。」


「・・・。」


「25年・・・四半世紀か。この時間を共に過ごして来た事実は重いと思うなぁ、やはり。」


この1週間、父はやはり私のことを見てくれていたのだ。もちろん母からも様子を聞いてたのだろう。この里帰りの意味が決して軽いものではない事を悟っていた。


「2人の子供が社会に出たことも、逆に1つのきっかけになってるのかもしれんが、あまり思い詰めた結論を出して欲しいとは思わん。親としてはな。」


「・・・。」


「私と母さんも、まぁいろいろあった。我々の時代の男はワガママだから、母さんも随分我慢をしてくれたんだろう。今ならとっくに愛想尽かされて、三行半を突きつけられて、寂しい思いをしてたのかもしれんが、まぁお陰様でなんとか、添い遂げられそうなのは、ありがたいと思ってる。」


お父さん・・・。


「朱美達にも、いろんなことを乗り越えて、そういう夫婦でいて欲しいと思ってる。これまでも、そしてこれからも。まぁ月並みなことしか言えんが、これが私と母さんの気持ちだ。」


父の言葉は、正直耳新しい意見ではなかった。相談した友人の多くが早まるな、という意見だった。ただ、実際にいろいろなことを乗り越え、夫婦、家族というものの、望ましい1つの形を実際に私に示し続けてくれた父の言葉には重みがあった。


「こっちに帰って来てから、隆司くんとは全く連絡を取っとらんようだったが、正直寂しくはなかったのか。」


「ううん、寂しかった。声が聞きたかったし、会いたかった。」


父に直球でそう聞かれて、私は素直に答えていた。


「そうか、なら結論は出てるようだな。ただし。」


ここで、それまで柔和だった父の表情が、一転厳しくなった。


「もし、お互いの信頼関係を損なう何かがあったのだとしたら、その時は夫婦を続ける資格はお前達にはない。すぐに帰って来なさい。」


そう言い切った父の顔を、私は凝然と見つめてしまっていた。