いずみにも弟がいる。どんなに体が大きくなろうと、態度が生意気だろうと、末っ子というのは家族で一番の愛されキャラなのだ。なので、アーレスには同情するが、セリーナの気持ちも分からないではない。

「今日お伺いしたのは、お礼と……あと、お義母様に教えていただきたいことがあって」

「あら、なあに?」

セリーナは気を良くしたように身を乗り出した。

「味噌と醤油って聞いたことありますか? 調味料なんですけど」

「ええ。知っているわよ。ミヤさまが開発された調味料よね。あいにくうちでは口に合わなくて、いただいたものも残ってはいないのだけど」

「……そうですか」

肩を落としたいずみだったが、続けられた言葉にあっさりと浮上する。

「でもグレイスのところにはあったはずよ」

「げっ」

「グレイス様?」

アーレスといずみが同時に答える。
ちらりと彼を窺うと、苦虫をかみつぶしたようなひどい顔だ。
いずみの凝視に気づいた彼は、まるで砂を吐き出すように眉間にしわを寄せて言った。

「俺の姉だ。現在はアルドリッジ侯爵夫人だな」

「お義姉さま……ですか」

そのタイミングで、庭先の方が騒がしい。

「あらあら、噂をすれば来たんじゃない?」

カラカラと笑うセリーナとは対照的に、一気にアーレスが青ざめる。

「は? 母上? 姉上まで呼んだのですか?」

「あらだって。アーレスがようやくお嫁さんを連れてくるのよ? こんなおもしろいこと、共有しない手はないじゃない?」

「共有って……あなた方は!」

「あの子だってお前のことを心配しています。がたがた言わずに挨拶位しなさいな。騎士団長の名が泣きますよ」

「くっ……」

言い負かされているアーレス様を見て、かわいいと思ってしまうのはいけないだろうか。
実際自分が姉であるいずみは、男性のこういったちょっと情けない姿に弱い。