(そんな設定の本ならたくさん読んだよ。あ、もしかしてこれ、夢かな。もしかした私、実は今でも意識不明だったりして。だったら……目が覚めるまでの間の話だし、調子をあわせちゃってもいいか)

「そうだったのですね。わたくしの力を求めて……」

(うわー。言ってみたかったよ、このセリフ! これってあれでしょ? この世界にはびこる悪とか何とかを私の力で救って、若く美しい王子に求婚されて幸せに暮らすとかいう王道設定が待ってるんでしょ?)

内心の興奮は表に出さず恭しく言うと、オスカーは得心したように頷いた。

「そうなのだ。聖女よ。私はこの国の王、オスカー・ウェインライト。この国では、流行り病による早世があまりにも多いのだ。まるで呪いのようなこの現状を、聖女の力で何とかしてくれないだろうか」

まるで舞台俳優のようにオーバーアクションで悲愴に訴えてくるオスカーを、いずみはまじまじと見つめた。

(この若さで王なのか、驚き。……じゃなくて、結構曖昧な上に仰々しい願いなんだな。それに聖女の力って言うけど、今の私、なにか使えるのかな)

「……ちょっとお待ちくださいね」

試しに、いずみは手を広げて、ゲームで覚えた癒し魔法の詠唱をしてみる。……が、何も起こらない。手が熱くなるとか、光が広がるとか、そういうお約束な展開を期待していたのに。

「癒し魔法は使えないようです。……ええと、では次に」

水魔法とか聖女っぽいって思い、それっぽい詠唱をしたが、やはりないも起こらない。
神官とオスカーから疑惑のまなざしを感じ、いずみの額に、ジワリと焦りの汗がにじんできた。

「えっと……私はなにをすればいいんですかね」

なにができるかを検証するのは後にしようと決め、先にオスカーに話を振る。すると、オスカーと神官は顔を見合わせ、神官のほうが一歩前に出て話し出した。