「私も、自分がこの世界でできること、探しています。今日初めてひとつ、見つけたんですよ? ジンジャークッキーをつくること。これでアーレス様が喜んでくれること。私がここに来て、初めて自分でできたと思えたことです」

分からないのなら、ひとつひとつ、試して見つけていくしかないのだ。
そうして見つけたやりたいことが形になっていくのは、存外心地いいものだった。

(喜んでもらいたい。誰よりもアーレス様に。できれば、彼の体にいいもので)

「ショウガは胃の不調にも効くんです。最近アーレス様、お疲れのようだったし……」

「……俺の体調を考えてくれてたのか?」

アーレスが驚いたように目を見張る。

「はい。だって、私、アーレス様の妻ですから」

思わず強気になって言ってしまったが、厄介払いを引き受けてもらっただけの妻だ。
偉そうに言うのはおかしな話かもしれない。
いずみが恥ずかしさで、顔を赤くすると、向かいのアーレスもなぜか顔を赤らめてそっぽを向いている。

「そうか。それは、……その」

しどろもどろに、彼は言う。消え入りそうな声で。

「助かる」

(……なんだか心がむず痒い)

胸の内に宿る、抑え込んだはずの恋心に、静かに情熱の火がともる。
何よりいずみが嬉しかったのは、前より少し、アーレスに近づけたと感じられたことだった。