「このクッキーは君の国では普通に出回っているものなのか?」

アーレスはあらかた夕食を食べ終え、ワインを優雅な所作で傾ける。
歴戦の勇者と言うけれど、さすがお貴族様だけあって、いちいち動作がお上品だ。

「そうですね。日本……私の国ではそうでもありませんが、外国では定番のものですよ」

「君の世界にも国がいっぱいあるんだな?」

アーレスはジンジャークッキーがお気に召したようだ。これはもしかして、ジンジャーエールなんかも喜ばれるかもしれない。生のショウガが大量に手に入ったら、ジンジャーシロップの仕込みをしようといずみはひそかに思う。

「君の国では戦争はあるかい?」

少し酔っているのか、アーレスは目をとろんとしながらグラスを傾けた。
吸い込まれそうな濃い青の瞳に目が奪われそうになりながら、答えた。

「私の国は昔大きな戦争で負け、もう二度と戦争をしないことを誓いました」

「誓ったところで攻めてこられたらどうしようもないだろう」

「武力を行使する前にできることもあります。国同士が問題を共有し、話し合いをするのです」

「それは……すごいな。そんなことが可能なのか」

「もちろん、すべてがそうじゃありません。世界には、今でも戦争をしている国はあります。でも……武力だけでは恨みを生むだけで何も育ちません」

「……そうか。そうだな。いや、さすがは聖女だ」

アーレスが感慨深げに言うのが、いずみには不思議な気分だった。
思えば、夫婦になってから、こうしてゆっくり話すのは、初めてなのだ。