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アーレスが帰宅したのは、いずみが夕食を終え、そろそろ湯あみをしようかと、湯を貯めているタイミングでのことだった。
『どんなに遅くてもタイミングが悪くてもいいから、旦那様が帰ってきたら教えて』
という言いつけを忠実に守ったジナに呼ばれ、いそいそと身なりを整えて広間へと向かう。
家令に足止めされていた彼は、いずみを見て、「起きていたのか」とつぶやいた。
「おかえりなさいませ。お出迎えが遅れて申し訳ありません」
「ああ。いいのだ、出迎えなど」
上着を受け取ろうと手を伸ばしたが、彼は家令へと手渡してしまう。
(くう、妻の務めを取られたわ。この宙に浮いた両手をどうしてくれよう)
「コホンっ」
ジナの咳払いが聞こえ、いずみは本日の目的を思い出した。
「今日はジョナスとお菓子を作ったんです。……アーレス様にもお召し上がりいただきたいんですが」
「あー、悪いが俺は甘いものは……」
「そう言われると思ってました。大丈夫です。そんなに甘くないんですよ。一枚だけでもいいから召し上がってください」
彼を食堂に案内し、食事の前に紅茶とクッキーを持ってきてもらう。
アーレスの視線は、怪訝そうに皿といずみを行ったり来たりしていたが、やがて、覚悟を決めたように食べ始めた。
アーレスが帰宅したのは、いずみが夕食を終え、そろそろ湯あみをしようかと、湯を貯めているタイミングでのことだった。
『どんなに遅くてもタイミングが悪くてもいいから、旦那様が帰ってきたら教えて』
という言いつけを忠実に守ったジナに呼ばれ、いそいそと身なりを整えて広間へと向かう。
家令に足止めされていた彼は、いずみを見て、「起きていたのか」とつぶやいた。
「おかえりなさいませ。お出迎えが遅れて申し訳ありません」
「ああ。いいのだ、出迎えなど」
上着を受け取ろうと手を伸ばしたが、彼は家令へと手渡してしまう。
(くう、妻の務めを取られたわ。この宙に浮いた両手をどうしてくれよう)
「コホンっ」
ジナの咳払いが聞こえ、いずみは本日の目的を思い出した。
「今日はジョナスとお菓子を作ったんです。……アーレス様にもお召し上がりいただきたいんですが」
「あー、悪いが俺は甘いものは……」
「そう言われると思ってました。大丈夫です。そんなに甘くないんですよ。一枚だけでもいいから召し上がってください」
彼を食堂に案内し、食事の前に紅茶とクッキーを持ってきてもらう。
アーレスの視線は、怪訝そうに皿といずみを行ったり来たりしていたが、やがて、覚悟を決めたように食べ始めた。



