その間に、日本も大きな変化を遂げた。
だが、情報化が進み、便利になった分、個々の生活能力は落ちたかもしれない。

(だって、スイッチ一つで何でもできるしな。最近のスマホなんて、呼びかけるだけで疑問にも答えてもらえる)

だけどここにはスマホもない。電波も飛んでない。

(頼れるのは自分の記憶だけってことだ。だとすれば、私にできることはやっぱり料理くらいしかない)

「さて、焼けたぞ、奥様」

ジョナスがそう言い、オーブンから鉄板を取り出す。いずみが考えていた焼き時間よりも短い。

粗熱を取ってから、ジョナスとふたりで味見をする。まだ温かいそれをかじると、サクッと軽やかな音が鳴り、控えめは甘さとスパイシーな香りが広がる。

「これは不思議な……でも妙に癖になる味だな。予想外な組み合わせですがなかなか……」

「でしょう? 甘いものが苦手な人には向いていると思うの。それにショウガは胃の不調にも効果があるから、アーレス様にはピッタリじゃないかと思うんです。最近、お疲れのようですから」

ジョナスは「ほう」と言いながら、感心したように唸った。

「でしたら、これを旦那様に出したら喜びますな。俺はショウガを菓子に使うなんて考えてもみなかったから、奥様じゃなければ考えつかんことだろう。オーブンが使えなくたって、旦那様のためにしっかりお役にたっているじゃねぇか」

何気ない、ジョナスの言葉に、一瞬息が止まりそうになった。