ジョナスの笑顔に、救われた気分になりながら、いずみは休ませておいた生地を手に取った。
今は型抜きが無いので、円柱型に丸めて、包丁で五ミリ厚にカットし、油を塗った鉄板に並べて、あとはジョナスに託した。

焼いてもらっている間に、ジョナスに生活魔法について教えてもらう。
この世界では、学校のカリキュラムとして魔法の時間があるのだそうだ。遅くても初等学校の二年生くらいには、魔法を使うコツを習得し、一度覚えたコツは早々忘れることはないのだそう。
どうやら自転車の乗り方を覚えるような感じのようだ。

「うちのハッセも出来ますぜ。アメリが今習っているくらいじゃねぇですかね」

「つまり私は小さな子供にも劣るということなのね」

地味に落ち込む。役立たずの烙印を押されたようなものではないか。
だけど、ジョナスはカラカラと笑った。

「その代わり、俺らが知らないことを知ってるじゃねぇですか」

それは新鮮な驚きだった。

(そうか。私が知ってて、みんなが知らないこともあるのか)

「なに驚いてるんですか。聖女様ってなぁ、ここより文明の発達した世界から来たんでしょう」

「そうか。そうだよね。ミヤ様がいたから、みんな知ってるんだ」

ダムを作ったり、それこそいろいろな知識を持っていたミヤ様は、現代日本の知識を使って、みんなから尊敬される聖女になったんだ。

(ミヤ様が召喚されたのが、平成七年だっけ。……ってことは彼女が日本を離れてからすでに二十年以上経っているんだ)