(……ああ私、死ぬのかなぁ。四半世紀しか生きてないけど、もう終わり? 思えばろくな事なかったな。好きな人ができても、告白ひとつ出来なかった。仕事もこんな状態で。いつかは花開くって信じていたけど、こんなところで終わっちゃうんだ。……だったら、もっと言いたいこと言えばよかった。傷つくのが怖くて、笑ってごまかしてばかりだったけど、私の気持ち、もっとちゃんと言えば……)

一瞬、意識が途切れた。
ふと気づいたとき、いずみは真っ暗な空間にいた。
スタジオならば暑いくらいなのに、ここはなぜか肌寒い。
それに物の気配がなかった。暗さゆえに遠くは見えないが、手を伸ばしてもなににもぶつからない。
風の音がどこまでもまっすぐ進んでいる感じが、いずみを不安にさせる。

(ここ、どこだろう? スタジオにいたはずなのに)

事故があったはずだ。だから別室にでも運ばれたのだろうかと、いずみは自らの手を動かしてみた。

「でも、怪我は、……無いよね」

ゆっくりと立ち上がり、足踏みもしてみるが、どこも痛くない。

(足音もするから死んでいない……よね)

だけどここがどこだかは分からない。不安であたりを見回していると、視界の先にきらりと光るものが見えた。

「あれ? 誰かいます?」

光以外は何も見えない空間に恐怖を感じ始めていた彼女にとって、その光は救いの手のように思えた。
蜘蛛の糸にすがる罪人の気分で、いずみはその光目指して歩き出す。

足は滑るように動いた。というか体が軽かった。一応歩く動作はしているけれど、重力のようなものは感じず、水の中を泳いでいるような感覚だった。

やがて、光を発していたものの近くまで来る。それは上半身がすっぽり映るくらいの鏡だった。
時折チカチカと光を発するから厳密には鏡ではないのだろうが。