聖女の魔力が使えません!~かわりにおいしい手料理ふるまいます~


それから、数週間後。
オスカーによって主催された夜会で、いずみは流行り病の原因を突き止めた功績をたたえられた。
アーレスから贈られたドレスを身に着けたいずみはひときわ目立っていた。
それは、宝石に比べればキラキラはしていないが、刺繍が独特であり、色使いもカラフルだ。
黒髪によく映える髪飾りも、白い肌を彩るチョーカーも、いずみによく似あっていて、貴婦人の間ではどこで作られたものなのかと大きな話題に上る。アルドリッジ公爵夫人のグレイスが勿体ぶったように情報を小出しにし、貴婦人たちに囲まれている。

「さて。この場で君に今回の功績を支え、再び聖女の称号を授けようと思うのだがどうかな」

にこやかにほほ笑むオスカーに、イズミは首を振った。

「聖女って与えられてなるものではないと思うんです。私はただのいずみでいいです。アーレス様の妻のいずみで十分ですもの」

けれど、助けられた人々は、彼女のことを聖女と呼んだ。
ショウガを使った新しい料理をはやらせ、ミヤ様とは違った力でこの世界の危機を救った聖女は、堅物だった騎士団長アーレス・バンフィールドを首ったけにしたことから、〝団長殺しの聖女〟というとんでもない二つ名でセルティア王国の歴史書にしっかりと刻まれるのである。



【Fin.】